ニヒリストたちの聖典。ビアス『悪魔の辞典』を読んで

暗い芸術, 悪魔, 魔女, 火の玉, マジック, 燃えた, スパーク, 怖い

はじめに

アンブローズ・ビアスの『悪魔の辞典』を読んだ。

本書は別名「冷笑家用語集」と呼ばれているが、この名称は言い得て妙だと思う。

というのは、本書は世の中を斜め上から皮肉った極めて性格の悪い事典だからである。一応、褒めている

今回はそんな性悪本を紹介したい。

秀逸なワードを厳選して抜粋

本書についてとやかく語るよりも前に、実際にいくつかの単語と著者の悪魔的解説を引用した方が理解が早いと思われる。

というわけで、以下からは個人的に気に入った単語を抜粋して紹介していく。

 

阿片剤

阿片剤(opiaten.)「自己認識(アイデンティティ)」なる牢獄に見られる錠の下りていないドア。そのドアは牢獄の運動場に通じている。

 

この解説を見る限り、著者はどちらかといえば阿片を肯定的に捉えているような感じがする。というより単純に経験者なのでは笑

 

自惚れ

自惚れ(conceitn.)こちらが嫌っている奴に見られる自尊心。

 

なるほどな解釈。確かに人によって印象が変わるかも。

 

餌(baitn.)釣り針の味を一層よくするために作った料理。その最上のものが美貌。

 

笑ってしまった。ユーモア溢れる解説。

 

火葬

火葬(cremationn.)人間の冷肉を暖め直す操作。

 

冷肉って。操作って。

どうやら著者は死者を弔うという精神を持ち合わせていないらしい。

 

過労

過労(overworkn.)身分の高い役人が、魚釣りに行きたいと思う時にかかり易い危険な病気。

 

かなり真理を突いている気がする。

過労とは、責任が重くて、なおかつ仕事が好きではないという条件が揃った時にかかる病気なのかもしれない。

 

感謝の念

感謝の念(gratituden.)すでに受けた恩恵とこれから期待する恩恵との中間に位する感情。

 

著者は人間の心理を本当によく見つめている。

 

狂気の

狂気の(madadj.)高度の知的独立心という病気に冒された。同調主義者が自分自身を検討した結果導き出した、思想、言語、および行動の規準にあえて同調しようとしない。大多数の者と相容れない。一口に言って、異常な。ある人を指して狂気だと、何者が断定するかと言えば、当のご本人が正気である証拠は一つもない役人連であるのは、注目に値する。

 

これには凄く共感した。

別に自分自身が高度に知的だと言いたいわけじゃなく、世の中を見渡してみるとこの構図は本当によく目にするからだ。

大抵は異常者が責められているわけだが、ビアスの言うように、だからと言って責めている方が正しいと思えたことは今の所ない。

 

子供時代

子供時代(childhoodn.)人間の生涯において、白痴も同然な幼年時代と愚行にみちた青年時代との中間に位し罪多き壮年時代からは二段階、悔い多き老年時代からは三段階、それぞれ隔たっている一時期。

 

骨の髄までニヒリズム。

 

親切

親切(kindnessn.)十巻から成る苛酷な要求に付せられた簡単な序文。

 

またの名を迷惑。

 

成功

成功(successn.)自分と同輩の者に対して犯す、ただ一つの許すべからざる罪。

 

本当に罪だと思っている人とかいそう。

 

無学者

無学者(ignoramusn.)あなたにとってはお馴染みの、ある種の知識を欠いている反面、あなたのまったくご存じない、他のある種の知識を持ち合わせている人物。

 

人をバカにしてはいけない理由がこれ。

たとえその人が無学だと思っても必ずある面では自分よりも優れている。それを知らずにバカにしようものなら、とんでもない悲劇が起きる。

 

今回紹介する単語は以上となるが、まだまだ本書には性格の悪い解説が多く載っている。

真正のニヒリズムにどっぷりと浸りたいという方は、ぜひ『悪魔の辞典』を引いてみてほしい。

ニヒリストたちの聖典

『悪魔の辞典』は、清々しいほど世の中のリアルな面を読者に伝えてくれる。

好き嫌いが分かれるのは当然として、そういう汚い部分を知るという意味でも1度目を通してみるといいかもしれない。

案外、新たな発見があるかも。

 

そして、ニヒリストにおすすめなのは言わずもがな。

本書の辛辣で救いのない言葉は、ニヒリストたちにかえって癒しと喜びを与えてくれるだろう。

さらに諸賢たちにはラ・ロシュフコーの『箴言集』ショーペン・ハウアーの著作も合わせておすすめしたい。

これらも本書に負けず劣らずニヒリズム精神に溢れた素晴らしい作品となっている。